松本スイーツコンテスト2019 審査結果

グランプリ
- 作品名
- ヴェールクレール
- 氏名
- 大塚 泰裕
- 店舗情報
- パティスリーニューモラス
松本市小屋南1-12-1 TEL 0263-31-6228
個性的な香りをもつセロリの可能性に注目し、他の食材とあわせた新しい利用法を追求しました。ヴェールクレールはフランス語で「淡い緑色」。白ワインのムースと洋梨のゼリーで味のバランスを整えました。
2019年2月2日、「松本スイーツコンテスト」の最終審査結果発表と表彰式が行なわれました。第4回目を迎えた今回のテーマは、「Possibilities(可能性)」。グランプリに選ばれたのは、「パティスリー ニューモラス」の大塚泰裕氏。表彰式の翌日、取材にお伺いしたところ、その日からお店で販売がスタートした受賞作品「ヴェールクレール」を目当てに、朝からお客様が続々といらしていました。

「パティスリー ニューモラス」は、2017年3月、松本市小屋南にオープン。大塚シェフは、神奈川県や東京都内のホテルやパティスリーでの修業を経て、この地で独立されたのですが、ご実家があるという訳ではなく、お生まれは埼玉県とのこと。一体なぜ、この松本の地で開業することになられたのかも、気になるところです。店名の「NUMOROUS(ニューモラス)」とは、 “HUMOROUS”(=可笑しい、ユーモアがある)という言葉に1本の線を加えることで、英語の“New”(=新しさ)や、 フランス語の“Nu”(=飾らない、あるがまま)といった意味を込めたのだそう。
実優勝作品の「ヴェールクレール」は、フランス語で「淡い緑色」という意味。個性的な香りを持つセロリの可能性に注目して、主役としたケーキです。
セロリといえば、長野県が全国の生産量1位で、その中でも松本は主たる生産地の一つ。地元の審査員や関係者の方々からも、「セロリの漬物などは馴染みがあるが、まさかお菓子に使うとは・・」と驚きの声が上がりました。白ワインのムースと洋梨のゼリーと合わせることで、味のバランスを整え、食べやすく仕上げています。セロリが得意ではないと思っている方にも、ぜひ敢えて召し上がっていただきたい意欲作でした。

このお菓子が生まれたのは、大塚シェフが2016年8月に松本に引っ越しをしてから、地元の農家さんで約6か月間、農作業を体験されたことがきっかけでした。そこで経験したのが、セロリの外側の固い葉を剥いていく「芽かき」作業。決してセロリ好きではなかったそうですが、暑いハウスの中で喉がカラカラになり、思わずセロリをかじったら、みずみずしくて美味しい!と感動したのだそう。そんなセロリのいい所を残したお菓子を作ろうと、シャキシャキした食感を活かしてコンポートに。ホワイトラムを加え、好き嫌いの分かれる独特の青みある香りを抑えつつ、セロリらしい爽やかな後味はしっかりと感じられるのがポイントです。
大塚シェフは、「横浜ロイヤルパークホテル」や東京・お台場の「ホテル・グランパシフィック・メリディアン」(現「グランドニッコー東京台場」)を経て、鎌倉の「パティスリー 雪乃下」の宇治田潤シェフのもとへ弟子入り。その後、宇治田シェフが東京・目黒で開業した「パティスリー ジュンウジタ」で右腕を務めました。そのように、きらびやかなホテルの菓子や、クラシックなフランス菓子の技術を吸収しながら、いずれは、一次産業の盛んな場所に移住して独立したいと、幾つかの候補地へ視察にも訪れ、着々と準備を進めていらしたそうです。
その中で松本に魅力を感じたのは、自然が豊かでありながら観光地でもあり、松本城を中心に、町がぎゅっと一つにまとまっているところ。また、個人商店が多いところ。開業した地域も、菓子店の多い激戦区だそうですが、「事前に周囲のお店にもご挨拶に伺い、快く受け入れていただきました。同世代の菓子店の知り合いも増えています。若手同士も仲がいいんですよ。」と笑顔で話してくださいました。

首都圏で働いていた頃は、八百屋さんや問屋さんが届けてくれたものを使う、というのが普通でしたが、材料の仕入れ方が大きく変わり、「その都度、ブレがあるので難しいですが、やりがいもある」という大塚シェフ。道の駅やスーパーでも、知らない野菜などに出会えるのが楽しいそうです。
「松本スイーツコンテスト2018」にも出場され、大信州酒造の純米酒とリンゴを合わせたグラスデザート「日本酒とリンゴのヴェリーヌ」を出品。第3位に入賞し、「松本スイーツ」として認定されました。松本にいらしてから、地元素材を使ったお菓子を創作するようになり、様々な素材との出会いを楽しみにしているそうです。
「松本スイーツ」の取り組みを通じ、他のコンテスト参加者とも交流が生まれ、刺激となっているとのこと。特に、和菓子職人の方々と出会い、和菓子の手法や知識にも、興味を抱くようになったそうです。松本の新しいお土産菓子「ミソラサンド」のプロジェクトにも参加するなど、積極的に地元を盛り上げようとされています。

開業後まもない4月より、地元の学校のパティシエ・ブーランジェリー学科でも授業を担当。オープン時にスタッフ募集の依頼で学校へ行ったところ、逆に教えに来てほしいとお声がけいただき、正式に引き受けられたそうです。
開業後すぐに、外部の仕事も引き受けられるというのは驚きのバイタリティー!「今まで、自分が感覚的に学んできたことを、人にわかるように伝えないといけない。言葉にするということが、自分自身にとっても、理論的に深めることに繋がっているんです。」という大塚シェフ。
今年の4月からは、製造のスタッフ人数も少し増やし、商品を増やしていきたいと張り切っていらっしゃいます。「幸せって、選択肢が沢山あることだと思うんです」と話し、お客様に、選ぶ楽しさを提供していきたいそうです。
とはいえ、世の中の動きも見据え、週休2日制を目指し、お給料もしっかりと出していきたい。そのためにも、材料はいいものを使いつつ、手間をかけずに売っていけるような、魅力ある商品を作っていく必要性を感じているそうです。
最近、“お酒によく合う大人の濃厚チーズケーキ”としてリピーターが増えつつあるのが、「長野燻製チーズケーキ」。お店の看板には、店名と共に「お菓子な香りと甘み研究所」と書いてあり、そのロゴマークは、遊び心あるフラスコと試験管のようなデザイン。実は「お酒」のイメージでもあり、この店では、大人だからこそ楽しめる「お酒を使ったお菓子」「お酒と楽しむお菓子」を提案していきたいのだそうです。
そのように、コンセプトを明確に打ち出して浸透を図っていきたい、と話す大塚シェフ。「バーの町とも言われる松本ですから、どこか場所を借りて、カクテルに合わせたお菓子を出すとか、ワイナリーや酒蔵とのコラボなどもやってみたいです」と、新しい挑戦にも思いを巡らせていらっしゃるようです。
松本に新しい風を吹き込み、まさに「Possibilities(可能性)」を広げる新世代のお1人として、これからも様々なチャレンジをしていっていただきたいですね!

準グランプリ
- 作品名
- 松本の泉
- 氏名
- 宮城 弘治
- 店舗情報
- le sourire
松本市城東1-2-18-2 TEL 0263-36-7739
フランスの伝統菓子「ピュイダムール(愛の泉)」を地元食材でアレンジしました。カスタードのなめらかな甘みをルバーブとリンゴの酸味が引き締めます。松本の菓子文化の裾野を広げる、フレンチシェフの挑戦です。

第3位
- 作品名
- 雪詩
- 氏名
- 近藤 美希
- 店舗情報
- 御菓子処 藤むら
松本市中央2-9-19 TEL 0263-32-1421
豆乳寒天がカシス餡を包む、未来を見据えた「低糖質」の上生菓子です。砂糖の使用量を極限まで減らし、素材もできるかぎりオーガニックを使って仕上げました。

入賞
- 作品名
- 松本多果楽餅
- 氏名
- 井上 雅恵
- 店舗情報
- 手作り和菓子の万寿堂
松本市旭2-3-10 TEL 0263-32-1835
くるみと果実を求肥でまとめた、懐かしくも新しい一品です。材料はなるへく自然なままに、味は優しく、噛むたびに違う食感をお楽しみいただけます。

入賞
- 作品名
- ねぎらい
- 氏名
- 井野 七虹
- 店舗情報
- パティスリーニューモラス
松本市小屋南1-12-1 TEL 0263-31-6228
野菜とリンゴの優しい甘みをゴルゴンゾーラとペアリングしました。素材に応じた火入れを工夫することで、甘さの表現に幅を持たせています。