地方の《価値》をスイーツに託して

地方の《価値》をスイーツに託してスイーツジャーナリスト 平岩 理緒 氏

松本にはどういった印象をお持ちですか。

松本にはどういった印象をお持ちですか。

一言で申しあげると、歴史のあるまち、でしょうか。

『開菓』(2017おみやげ部門グランプリ)は、旧開智学校が和洋折衷の建物というところから着想された作品なんですが、とても面白いと思いました。『松本城シュークリーム』(2016準グランプリ)もそうですが、歴史的なものをお菓子に反映できるのも松本ならではという感じがします。

地方へはよく行かれますか。

普段からお店の取材などで回らせていただく機会があります。松本市さんのように、スイーツという切り口で地域振興に取り組まれている自治体の方と関わらせていただくケースも増えていますね。

スイーツジャーナリストというお仕事について教えてください。

雑誌や書籍、ウェブサイトなどでスイーツの記事を書くライターのようなことや、お店への取材、テレビやラジオなどでおすすめのスイーツを紹介したりと、さまざまな仕事をしています。また、買う側の目線で、どうしたら商品がより魅力的になるかというようなことを企業にアドバイスする、コンサルティングのようなこともしています。

ご自身のルーツはどの辺りにあると思われますか。

子供のころから、歴史の教員を目指していました。大学でも歴史学を専攻しましたが、結局マーケティングを扱う一般企業に就職しました。歴史を学ぶ意味って何だろうと考えたときに、一つには、昔の人たちがずっと積み重ねてきたものを伝える、後の時代の人たちが同じ過ちを繰り返さないように、といったことがありますよね。そうした歴史の教員の仕事と、メーカーと消費者の間に立ってそれぞれの思いをそれぞれにフィードバックするマーケティングの仕事とは、私の中では違和感なくつながっていたんです。

その後独立して、スイーツジャーナリストとして活動されていますね。

その後独立して、スイーツジャーナリストとして活動されていますね。

歴史の教員を目指していた私がマーケティング会社に入り、今スイーツジャーナリストになっている。すごく不思議な方向転換をしているように見えるかもしれませんが、実はそんなこともないんです。それは、『人に何かを伝えたい』というところが根本にあるからです。私の仕事は、突き詰めると、人と人とのご縁をつなぐ仕事だと思っています。

フリーランスになる、というのは簡単な決断ではなかったと思いますが…

よく聞かれるんですが、自分で思い返してみるとそんなに大変ではなかったように思います。好きなことを追求していった結果、今に至ったようなところがあります。マーケティング会社を辞めた後は、製菓学校に通いながら少しずつスイーツ関係のお仕事をいただいていました。そのときそのときの課題やお仕事を最大限に頑張ってやり遂げてきた結果として、それを評価していただき、いいご縁もできました。周りの皆さんのいろいろな助けのおかげで、そのご縁が広がっていき、今に繋げてこられたと思いますので、とても感謝しています。

「松本スイーツコンテスト」には、立ち上げから関わっていただいてますね。

審査委員長の安里 哲也シェフ(ザ・キャピトルホテル東急シェフパティシエ)と以前からお付き合いがあり、そのつながりで声をかけていただきました。これもまさにご縁で、とてもありがたいことだと思います。

松本のコンテストの特徴はどんなところでしょうか。

入賞した後は自分たちでやってね、ということではなく、市内で開催される各イベントに出店したり、雑誌等にスイーツの情報が掲載されたりと、みなさんに知ってもらえる場をたくさん設けていらっしゃるので、『松本スイーツコンテストに入賞すれば、こんなふうに盛り上げてもらえるんだ』という期待感がある思います。作り手の方としても、作品が評価されてそれを販売できるというのは嬉しいことだし、モチベーションも上がると思います。

平岩さんも精力的に市内のお店を回ってくださっています。

私の役割は、やはりそういうつながりを作らせていただくことにあると思いますので、松本へ来るたびに、色々なお店にお邪魔させていただいています。つながりといえば、コンテストも2年目を迎えて、参加された方々の間にもつながりができているんだなと感じています。イベントなどへの出店でも、関係店舗で販売や出品を分担されている、とお聞きしました。それも、コンテストを通じてつながりが生まれたからこそだと思うんですね。

ライバルでもあるお店同士で協力し合えるというのは、素晴らしいですね

地方のお店は、やはり慢性的な人手不足で、コンテストなどのイベントに興味があってもなかなかそこまで手が回らなかったりするんです。1店舗だけに負担がかからないような形にされているので、そういうモデルケースとしても興味深いですね。

地方でコンテストを続けていく難しさもあると思います。

地方でコンテストを続けていく難しさもあると思います。

松本以外のコンテストにも、審査員としていくつか関わらせていただいていますが、こういった取り組みをサスティナブル(持続可能)なものにしていくというのは、課題として常にあります。世界的に見ても、『参加してよかった』『メリットがあった』という参加者の実感が、コンテストの継続を支えています。数十年の伝統があるようなコンテストでもそこは同じなんです。メリットには賞をもらって売上アップみたいな直接的なものももちろんあるんですけれども、実はそれだけに留まらないと思っています。

詳しくお話しいただけますか。

いま菓子業界もすごく変わってきています。例えば、この業界で働くということを考えたときに、職人ってやはり自己研鑽の世界ですから、1日8時間できっちりというわけにはいかない部分があると思います。ただ、仕事に打ち込んでご自身の技を究めるということも頑張っていただきたいですけど、やはりご家族の方との時間や、周りの方との交流も大切にしていただきたいと思うんです。働く人が元気に仕事を続けることができてこそ、業界の持続的な発展も望めると思いますので。

人とのつながりを大事にしてほしい、ということですね。

職人の方とお会いすると、働き方のことで悩まれたり、焦っていらっしゃったりということを最近はすごく感じるんです。誰かと出会って学んだり、課題を共有したりということが解決の糸口になると思いますが、お菓子屋さんって本当に忙しくて、なかなか外に目が向けられないということになりがちなんですよ。コンテストには、人と人とを引き合わせる機能が基本的ものとして備わっていて、それは大きなメリットではないかと思うんです。同業者の方はもちろん、外部の審査員、メディア関係者、行政の方、そして新しいお客さんとの出会いですね。

地方でコンテストを続けていく難しさもあると思います。

なるほど、職人の出会いの場としてのコンテスト。

世界的なコンテストでも、やはり一番のメリットは関係者とコネクションが得られて、お互いに刺激し合って、ということなんです。その部分を意識すれば、メリットに感じる方も増えて、長く持続する取り組みになっていくと思います。松本のように、地域密着型のコンテストであれば、1店でも多くの方に参加していただいてつながりを深めていただければ素晴らしいシナジーがあるはずですし、それは都会ではなかなか実現しにくいことでもあると思います。

地方のポテンシャルを感じる部分です。

お菓子とか、その人が生み出すものって、その人自身の生き方とか、日頃何をみて何を考えているかというのが表れると思うんですよね。そういうところで選ばれているスイーツというものも実際にあるんです。日本では、特に都会でですが、めまぐるしく新しいものを求める傾向があります。老舗が伝統の味を守りながら新しいものにも挑戦するみたいなことは、みなさん少しずつなさっているのて、そういうのはすごく大事なことです。ただ、流行に振り回される必要はないと思います。

スイーツは、一般の方からの関心も高く、話題性が重視されますね。

日本にお店を出された海外のパティシエの方は、『日本では、常に新作や限定品を作ってほしいと言われるんだよ』みたいなことをみなさん仰るんですが、彼らには、例えばフランスならフランスで固定のファンがいて、そういった方たちは自分の大好きなお店に常に買いに来る人たちで、別に新作とかを求めていなかったりするんですよ。

面白いですね。

スイーツは私たちの生活の中で多様な役割と価値を持ちうるものです。たしかに、ブームを作り出せるほどの話題性は、その大きな特徴のひとつです。ただ、作り手の個性に始まり、地域の歴史、食習慣や生活様式といった文化までを表現するのもまたスイーツだと思います。私もスイーツジャーナリストという立場で、流行を追って把握する部分と、俯瞰的に、長い目で見たときにどういう意味があるのかなというような部分と、その両方を意識しています。

地方でコンテストを続けていく難しさもあると思います。

最後に、「松本スイーツ」への期待をこめた一言をいただければ。

東京から地方へではなく、地方のムーブメントが東京で紹介されるみたいなことがもっと増えていいと思います。スイーツは地域を代表するコンテンツになりえるものですし、『松本スイーツ』には、その発信源となるパワーを感じます。ぜひ、息の長い取り組みに育てていただければと思います。

ありがとうございました。

撮影協力「御菓子処 藤むら」